「リカルド様!」
フットマンは倉庫の扉を開けるも、そこにリカルドの姿はない。いるのは2人の若い男性使用人たちのみだった。
「どうしたんだ?」
「リカルド様ならいないぞ?」
「ええ!? い、いない? どこへ行ったんだ!?」
その言葉にフットマンは目を見開く。
「うん、発注ミスがあった業者の元へ自分で行くと話していたな」
「俺達が行きましょうかと声をかけたんだけど」
「そ、そんな……」
フットマンが壁に寄りかかったとき――
「大変だ! 枯れ葉を集めて燃やしていたら、物置小屋に燃え移ってしまった! 人手が足りないから応援に来てくれ!」
別のフットマンが倉庫に飛び込んできた。
「「「何だって!!!」」」
「大変だ!」
「こうしてはいられない!」
「早く行こう!!」
こうして4人のフットマンたちは火を消す為に、大急ぎで物置小屋へ向かった。
もちろん、その頃にはイレーネの存在が忘れられてしまったのは言うまでもなかった。
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一方、その頃のイレーネは……。
応接間に通されてから、既に2時間が経過していた。始めの頃は、応接間のインテリアを感心した様子で眺めていたイレーネだった。
けれどそれにも飽きてしまい今は一人ソファにぽつんと座り、置き去り状態にされていた。
「それにしても随分時間がかかるのね……やっぱり、突然押しかけてしまったからなのかしら……?」
壁に掛けてある時計を見つめながら、イレーネはため息をついた。
「……喉も乾いたし、お腹も空いてきたわ……こんなことならこのお屋敷に着く前に、どこかで軽く食事でもするべきだったかしら……」
言葉にしてみたもののお金に余裕が無いイレーネに外食など、所詮贅沢でしか無かった。
それよりも今は帰りの汽車の心配のほうが勝っていた。
「どうしましょう……あまり遅くなっては帰りの汽車が無くなってしまうわ。かと言ってホテルに泊まれるはずも無いし……そうなったら図々しいお願いかもしれないけれど、このお屋敷に泊めていただくしか無いわね。頼み込めばきっと何とかなるでしょう」
呑気なイレーネはそう割り切った途端、強烈な眠気に襲われた。
「……何だか、眠くなってきたわ……遅くまで起きて服を仕立てていたから……」
ウトウトしながら、必死で意識を保とうとしたものの……ついにイレーネは背もたれに寄りかかったまま、眠りについてしまった――
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――午後4時半